四捨五入したら五十になる歳になってしまったので懺悔。
新潟の中でもさらにド田舎の、住所に「大字」と付く実家で二十四歳まで暮らした。
ベビーブームだったので、ド田舎でもそれなりに同年代の子供たちは周囲にいて、お隣(と言っても徒歩二分)は親のイトコの家。
その家には二歳上の息子がいて、なんでか私はその子と将来結婚することが決まっていた。
親は悪人ではないけど「お前はこういう生き方をするものだ」と決め付けてきて疑わない人。
親の計画では私は「高校卒業後は短大に行って、市の公務員試験を受けて市役所勤務して、二十五歳になったらお隣のヒロちゃんと結婚して子供を三人産む」ことになってた。
ちなみに弟は「いい大学に行け。その後は好きにすればいい」だった。
親の言うことさえ聞いていれば叱られないし楽だったこともあって、私はボーっと親の言いなりの子に育った。
親の言うがままに勉強して、親が言うまま本来の偏差値より低い高校(家から一番近かった)に入学して、ヒロちゃんと付き合った。
ヒロちゃんを好きだと思ったことはなかった。
私のことを完全にナメていて、ちょっとでも私が気に入らないことをすると両家の両親に言いつけた。
私は両家の両親に「なぜヤらせないんだ」というようなことまで叱られた。ボーっとした私もさすがに屈辱だった。
でも叱られたり叩かれたりするのがいやで、結局言いなりになってしまった。
親の口癖は「おまえみたいな世間知らずは、ここでしか生きていけない」
子供の頃からずーーーーーっと言われ続けていたので、完全に洗脳状態で「ここでしか生きていけないんだな、仕方ないな」と思っていた。
短大卒業後、市職員の試験に合格。市役所の税務課で働いた。
税務課の「土地・家屋」部門はなぜか男性が九割で、歓迎会や納涼会などで初めて男性と一緒にお酒を飲んだ。
ヒロちゃんといる時はヒロちゃんだけが飲んで、私はお酌をするだけで飲まないものとされていた。
私は断りきれずに二杯ほど飲み、親に怒られると思いながら帰ったら
「付き合いだからそういう場では飲むのが当然。断るのは相手の顔をつぶす」と言われ叱られなかった。
それを機に、私は同僚にお酒に誘われるたび断らずに参加した。居酒屋だけじゃなく、バーやスナックにも連れていってもらった。
スナックにはきれいな女性がいて、ほえ~っとなった。
勿論そういうきれいな人がいるのは知ってたけど、至近距離で見たのと「自分と同じ人間だ」と認識したのが初だった。
「肌がきれい」とホステスさんに誉められて、まあ他に誉めるとこなかったんだろうけど、人に容姿を誉められたのが初めてで更にほえ~っとなった。
親は私をかわいいともブスとも言ったことがなかった。
ヒロちゃんは私をブスだババアだ(二歳下なのに)、我慢してやってるんだと言うだけだった。
私は親に内緒で毎日一時間だけ、スナックで一杯飲んでから帰るようになった。
自分がしゃべるよりホステスさんたちの話を聞くのが好きで、「聞き上手だ」と可愛がってもらえ、御代もしばしばホステスさんの奢りにしてもらった。
ホステスさんの大半が今で言うシングルマザーで、旅館の住み込み仲居の経験がある人が多く、「どこの旅館がいい」「あそこは最低」と聞かされた。
二十四歳の夏、親に「おまえの結婚式、十一月に決めたぞ」と言われた。当然相手はヒロちゃん。
「わかった」と言って部屋に引っこんでから、
「これから一生あの男といるんだ。今までは別の家に帰れたけど、結婚したら帰る場所はないんだ。日曜なんか二十四時間一緒だ」
と思ったら耐えきれなくなった。
何よりもヒロちゃんの子供を産むのは「タヒんでもいやだ」と思った。自分だけなら我慢できても子供を巻き添えにするのがいやだった。
次の日、出勤して同僚にだけ「退職する。自分の意思だから」と告げ、引継ぎ用のメモを大急ぎで作って、
「退職します。自分の意思でいなくなります。事件ではありません」と書き添えて、お昼休み中に銀行へ行き、預金を解約して全額持って逃げた。
携帯電話やPHSは持ってなかった。
そして鈍行列車を乗り継ぎ、ホステスさんに教えてもらった「一番待遇がマシな旅館」に逃げこんだ。
ホステスさんの名前を出して「その人の紹介です」と言ったらあっさり採用された。
その後実家がどうなったか知らない。
一度も帰ってないし様子を見たいと思ったこともない。
親はもしかしたらタヒんだかもしれない。でもまったく悲しくないし、お墓参りしたいとも思わない。
ホステスさん達だけは会いたいけど、たぶんもうお店やめてるだろうな。
一人や二人、自分のお店を出せてたらいいなと思う。
仲居は八年でやめた。運転免許を取り直したとき「もしかして居場所が親にバレるかも」と少し怖かったけど別にそんなことはなかった。
その後はアパート借りて普通に暮らしてる。仕事は選ばなきゃ何でもある。
四捨五入したら五十になる歳になるまで、結局誰にも一度も恋愛感情を持つことはなかったから、私はこういう人間なんだと思う。
でもあの時家を出たからこそ、「こういう人間」のまま生きてこられた。
はたから見たら孤独で寂しい人生かもしれないけど、私みたいな人間にはこれが幸せです。
逃げられてよかった
苦労したのですね
他の人たちも言ってくれているように逃げ出してあっばれです
上手い言葉は見つからないけど、どうか幸せになって下さいね
あなたの幸せを祈っています
ヒロちゃんの嫁になるより十分幸せな人生だと思いますよ。
あなたの人生楽しんでくださいね。
この記事へのコメント
悪人ではないが←いやいやいや…
叩かれたりするのが←いやいやいやいやいや………
逃げられて良かったです
今後も幸多からんことを
この人がずっと幸せでいられますように。
ホステスさん、わかってて知識をつけてくれてたんじゃないかな